Column

2026.03.01

働く人の価値観の変化と、企業が直面する“制度とのズレ”

働く人の価値観の変化と、企業が直面する“制度とのズレ”

前々回の投稿では働き方をめぐる議論の背景を、前回は休息の確保がなぜ注目されているのかを整理しました。
こうした動きの背景には、「働く人の価値観」が大きくシフトしているという現実があります。
近年、労働力人口の変化やコロナ禍を経て、働く人が企業に求めるものはこれまでとは大きく変わってきたことを、皆さんも実感されているのではないでしょうか。
この価値観の変化に企業の制度が追いついていない場合、現場では“見えないズレ”が蓄積し、採用・定着・組織運営、そして 事業の競争力 にも影響が生じてきます。

■ 働く人の価値観はどう変わったのか
各種調査でも、「働くうえで何を重視するか」は確実に変化しており、その傾向は年代を問わず広がりを見せています。一例を挙げると以下のとおりです。


・ワークライフバランスの重視
長時間働くことより、「働き方の質」や「休息とのバランス」が優先されています。
・柔軟性へのニーズ
在宅勤務、フレックス、副業などが、企業選びの“前提条件”になりつつあります。
・“納得できる制度”への期待
評価制度の透明性、育成方針、キャリア形成支援など、「制度のわかりやすさ・説明可能性」が求められています。
・健康・メンタルヘルスへの関心の高まり
安心して働ける環境づくりが、働きがいにつながるという認識が広がっています。
特に若手層では、この価値観の変化が採用・定着の意思決定に大きく影響しています。

■ 採用市場・雇用競争にも直結している
ここ数年、採用の現場では変化が明確に表れています。
求職者は企業の理念や待遇だけでなく、“働き方そのものの実態” を厳しく見ています。
・ 採用段階で重視されるポイント
 - 残業や休息に関するルール
 - 在宅勤務・フレックスなど柔軟な働き方
 - 評価制度の明確さ
 - キャリア形成の方針
 - 管理職のマネジメントスタイル
特に若手・ミドル層では、
「制度が時代に合っているか」 が企業選びの重要基準となっています。
その結果、制度が古い、もしくは運用が古いままの企業では応募数が伸びないだけではなく、内定辞退も増えるという状況が生まれています。

■ 制度と働く人の価値観の“ズレ”が現場で起きている例
価値観と制度が合っていないと、企業内部ではさまざまな問題が生じます。

  1. 制度はあるが運用されない
    在宅勤務制度や休暇制度が存在しても、「使いにくい雰囲気」がある。
  2. 評価制度の基準が曖昧
    評価の基準が古い制度のままだと矛盾が生じ、不公平感が生まれやすい。
  3. 採用したい人材が選ばない
    制度がない、もしくはその実態が伴わない場合、求職者・従業員からの信頼を損なう。
  4. 早期離職・定着率低下
    ズレがミスマッチを生み、早期離職の大きな要因に。
    これらは個別の問題に見えますが、根本には
    やはり「制度と価値観の不一致」 が存在しています。
    このズレは、
    人材確保・採用力の低下にはじまり、 組織力・業務品質の低下の原因となり、ひいては事業競争力の低下という連鎖につながりかねません。

■ 「人的資本経営」の側面ではどうか
昨今、企業経営において「人的資本経営」が強く求められていることはご存じのことかと思います。
これは、従業員を“コスト”ではなく、価値を生む資本(Human Capital)として捉える考え方です。
人的資本経営の観点では、
• 従業員の能力発揮
• エンゲージメント向上
• 安心して長く働ける環境
• 公平で納得できる評価
• 柔軟な働き方を支える基盤
といった要素は、すべて 「事業価値の向上」につながる投資対象 とされます。
つまり、
価値観に応える制度づくりは、事業発展のための“人的資本への投資”でもあると位置付けることができます。
制度を時代に適応させていていくことは、従業員の満足と同時に、企業の生産性・競争力・持続的成長にも直結するのです。

■ 価値観に応える制度 × 事業競争力を支える制度
働く人の価値観が変化する中、企業が整えるべき制度は、
従業員のニーズに応えながら、事業の未来も支える仕組みである必要があります。
休息、柔軟性、公平性——
これらのテーマは、もはや“福利厚生”ではなく、
企業の人的資本を最大化し、事業競争力を高めるための基盤です。
制度のアップデートは、
採用力・定着力の強化と同時に、
組織力の底上げ=事業力の底上げにもつながります。

次回のコラムでは、こうした“価値観と制度のズレ”を埋め、企業の魅力と競争力を高めるための「これからの人事制度の方向性」について見ていきたいと思います。